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和風芝居「ザアカイ」

和風芝居仕立て
「ザアカイ」
全 四 幕

登場人物

  • ザアカイ
  • ナザレのエスさん
  • アルパヨどん
  • ゼベ吉っあん
  • よなたん(ゼベ吉の子供、7-8歳ぐらい)
  • 義太夫(ギター+語り)

第一幕 徴税人ザアカイ

義太夫: 時は西暦二十と七年、死海の北方、三里ばかり登りたるエリコという町に、ザアカイという名の徴税人がおった。(ベベン)身のたけ五尺にみたぬ小男なれど、いかにして得たものかロオマ皇帝より収税のお役をたまわり、毎月町の住人より税を徴収し、ロオマの収税所に上納するをもってなりわいとしておった。

されどザアカイ、ロオマ皇帝よりたまわりし権限をもって人々から金品を徴収するうちに、おのれの欲に目がくらみ、ぴんはね、着服、貧しい人々が泣く泣く備えた税金をもって私腹の肥やし放題。(ベンベン!)

さて今日もザアカイは、欲に目を血走らせて収税に駆け回っておった。チョ~ン・チョンチョンチョンチョン・・・(拍子木)

アルパヨどん: ちょっと待ってくれ。先月は三デナリだったでねぇか。あっしんとこは汗水たらして働いたって、月にやっとこさ十デナリも稼げるかどうか。それを今月になっていきなり五デナリの税金たぁ、そりゃ殺生ってもんでさぁ。

ザアカイ:わしに言われても困るな、アルパヨどん。そういう取り決めになったんじゃ。

アルパヨどん: へっ。 一体誰が取り決めたんだか。おおかたあんたが勝手に・・・

ザアカイ: (さえぎって)ぁんだとぉ? てめぇ下手に出てりゃあつけあがりおって。この・紋・ど・こ・ろ・が目にへぇらねえかっ! (ふところからロオマ皇帝の紋章を取り出す) 畏れ多くも、ロオマ皇帝、カエサル・シーサー様の紋どころなるぞ!
パ、パン(拍子木)
ひかえぃ!ひかえぃぃぃっ。!(見得を切る)

アルパヨどん: へへぇっっっ(土下座する)

ザアカイ: ま、今日のところは四デナリで勘弁しておいてやろう。 そのかわり来月は、滞納分にたっぷり利子をつけて集めさせてもらうからな。耳をそろえて用意しておけ。 払いが滞れば、ロオマの牢獄が待っておる事を忘れるなよ。(立ち上がる)

(アルパヨどん、すかさずザアカイの背中に「ぴんはね」と書いた『レッテル』を貼り付ける。 ザアカイ気づかず立ち去る)

(暗転)

(明るくなる。 ザアカイ登場。 いつのまにかザアカイの上着のそこら中に、「ぴんはね」「うそつき」「サギ」「金の亡者」「ロオマの狗(いぬ)」などと書かれた『レッテル』がすきまなく貼り付けられている。その背中の真ん中にでかでかと「罪びと」。)

ザアカイ: ゼベ吉っあん! ゼベ吉っあん! やいゼベ吉! いるのはわかってるんだ。戸を開けな。

ゼベ吉っあん:(戸を半分ぐらい開けて小声で)うちには病人が寝てるんだ。 あんただって知ってるじゃねぇか。 もうちっと静かにしてくんねぇか?

ザアカイ: 払うもん払やぁ静かに引き上げるぜ。(うそぶく)

ゼベ吉っあん:なぁ、今月は勘弁してくれよぉ。 かかぁの具合がひどく悪いんだ。金がねえ訳じゃねぇんだよ。ただ、これで良い薬を買ってやりてぇんだ。かかぁが元気になりゃあ、おらも昔みてぇにバリバリ働いて、そん時はきっちり払うからよ。

ザアカイ:(巾着をひったくる。中をのぞいて)なんでぇ。あんじゃねえか。

ゼベ吉っあん:(巾着を取り返そうとする)ちょ、ちょっと。それだけは勘弁してくれ。
ザアカイ: おめえのかかぁはちっと良い薬をやったぐれぇじゃなおらねえよ。おんなし事だからあきらめて金をよこしな。(巾着から金貨を取り出して数え始める)

ゼベ吉っあん:そんなこたぁねいやい。こんだナザレのエスさんとかいう、良~い先生がこの町にみえるそうだから、そん方に診てもらぃやぁこんな病気・・・(と言いかけて慌てて口をつぐむ)

ザアカイ: ナザレのエスさんだぁ? だれだぁそいつぁ?

ゼベ吉っあん:し、しらね。おらしらね。

ザアカイ: こいつ、何か隠してやがるな? おい! 何者だその、「ナザレのエスさん」とかいうやつぁ?

ゼベ吉っあん:し、しらねぇよぉ。 わかったよ。 そっから今日は税金払うから、とっとと金もって消えてくれ。

ザアカイ:ふん。最初から素直に払ゃあいいんだよ。(といいながら、巾着から金貨を数えて抜き取り、巾着をなげ返す。)

(ゼベ吉、すかさずザアカイの背中に「ひとでなし」と書いた『レッテル』を貼る。ザアカイ気づかず退場。 暗転。)

第二幕 ザアカイの食卓

(ザアカイ、一人で食事をしている。ちゃぶ台の横に『大福帳』。)

ザアカイ: ♪ふんふんふん(鼻歌を歌いながら金貨を数え、帳簿をつけている。) 今日のはアルパヨんとことゼベ吉んとこ、と。こっちがロオマに納める分とその帳簿。へっへっへ。そんでもってこっちが俺様の分っと。やめらんねぇな、この商売。 くっくっく。何デナリだろうと、俺様の決めた額を払うんだからなぁ。 無知な連中をだますのァ簡単だ。(酒をうまそうにぐびり、と飲む。)

ザアカイ:っっあぁ~うめぇ。(大声で)今日もいい一日だった。

( 間:しんとして何の物音もしない)

(また大声で、確かめるように)
ザアカイ:今日もいい一日だったよなぁ。

( ふたたび間:しんとして何の物音もしない。気を取り直して料理に手をつける。一口食べて、)
ザアカイ:料理もうまいし。
(誰かが応えてくれるのを期待するそぶり。 しかし、何の音もしない。 酒を一口飲む。)

ザアカイ:酒もうまい。

ザアカイ:なぁ?

(ザアカイ、箸をちゃぶ台の上に投げ出す。)

ザアカイ:ふん。(客席に向かってからむ)何とか言ったらどおだ。はん? 誰もいねえのか。 ばか野郎・・・。 (酔ってろれつが回らなくなっている。)

(徳利から酒を注ぐ。 もうほとんど空。)

ザアカイ:お~い。 酒がねぇぞ。 おいっ・・・。 畜生。 女中もけぇっちまったか。

(ちゃぶ台に突っ伏して眠ってしまう。 舞台暗転、ザアカイのみスポット)

(囃子方)

(しばらくして)

ザアカイ:ぇぇっっくしゅ。! (大きなくしゃみ。 はなをすすりながら顔を上げる。)
ザアカイ:おっといけねぇ。 こんなところで寝ちまったら風邪をひいちまわぁ。 ぇぇっっくしゅ。! うぅぅ。(震える)

(ザアカイ、はなをすすりながら退場。 暗転)

第三幕 エリコの町

(明るくなる。 ザアカイが歩いて行く。 例によってそこら中に、「ぴんはね」「うそつき」「罪びと」などと『レッテル』が貼り付けられた上着を着ている。

ザアカイ: (遠くをうかがうようなしぐさ)なんだ? 今日はなんだか、やけに町の方がにぎやかだな。 市(いち)の立つ日じゃねぇし。何だろう?

(ザアカイの脇を子供が駆け抜けようとする。 ザアカイ、それをとがめて)

ザアカイ: おい。 おめぇはゼベ吉んとこの、よなたんだな? わしが誰だか知らねえわけじゃねぇだろう? あいさつぐれぇしたらどうだ?

よなたん: 知ってるよぉ。借金取りのおっさんだろ?

ザアカイ: しゃ、借? 借金取りじゃねぇ。『税金取り』だ。

よなたん: どう違うの?

ザアカイ: あのなぁ。 税金ってのはだなぁ・・・。ふん。 おまえみてぇなガキに教えたってしょうがねぇ。それにわしにはちゃんと『ザアカイ』って名前があるんだ。 よく憶えとけ。

よなたん: はあい。 (行こうとする。 ザアカイ、その腕をつかむ)

ザアカイ: ちょっとまて。 よなたん。 今日町で何かあんのか?あの騒ぎは何だ?
(町の方を指差す)

よなたん: ナザレのエスさんが来るんだよ、今日。じゃっ。 (逃げようとする)

ザアカイ: 誰だ? そのエスさんとか言うのは?

よなたん: おいら、今すぐおっ父に知らせに行かなきゃいけないんだ。 おっ母を診てもらうんだから。(つかまれた手を振り払って行きかける)

ザアカイ: ナザレのエスさんとか言うのが何者か教えてくれたら銀貨一枚やるぞ。

よなたん: (振り返って) 本当け? 銀貨1枚?

ザアカイ: ほれ。(銀貨を一枚取り出してみせる)

よなたん: ほわぁ。 カエサル銀貨だぁ。

ザアカイ: だからナザレのエスさん!

よなたん: (はっと我に返って)預言者エリヤが生き返ったのかもしれないって。

ザアカイ: エリヤ?

よなたん: ん~よくわかんない。でも見えない人を見えるようにしてくれたり、何十年も治らなかった病気を直してくれたんだって。だからおっ母も直してもらうんだ。 もういいかい?

ザアカイ: そうか。 ほらよ。(銀貨を渡す)

よなたん: ありがとう! ・ザ・カ・リ・ヤ・さん!

(ザアカイ、ずっこける。 よなたん、それには気づかず走り去る)

義太夫: さてザアカイ、なぜかこの『ナザレのエスさん』なる人物に心惹かれ、一目見ようと町の大通りまでやってきた。ところが大通りはすでに黒山の人だかり、立錐の余地もなし。人垣の向こうに一目エスさんの姿を認めようと、いくら背伸びをしたとて、もとより小男のザアカイ、見えるものは人々の背中ばかり。 しからば股の間からとしゃがんで覗いたり、跳ねたりはしてみたものの全くらちがあかぬ。さればと知恵をめぐらせ、先回りをして道端にあるいちじく桑の大木によじ登り、そこから高みの見物と決め込んだ。
(義太夫の語りに合わせて、ザアカイ背伸びをしたり人垣越しに覗くしぐさ。上手のいちじく桑に木によじ登り、横枝の上に落ち着く。)

ザアカイ:やれやれ、ここからなら通りが良く見下ろせるわい。 それにしても町のものどもめ、わしのために少しぐれぇ詰めてくれたって良さそうなものを。 全く思いやりのねぇ連中だ。ふん。

義太夫:とザアカイがおのれの悪業を棚に上げてつぶやいておると、大通りの人垣が波のようにうねり、その中に白い衣をまとい長髪、ひげ面のやせた若い男が歩いてくるのが目にとまった。 ザアカイ、これぞうわさの、ナザレのエスさんに違いなかろうと、その若い男が大通りをまっすぐにこちらへ歩いてくるのを、いちじく桑の枝の上からじぃ~っと息を凝らして見つめておった。

(町の子供の声、ざわめき)エスさまー。 エスさまー。

(人々がエスさんの後ろについてぞろぞろと歩いてくる。 急にエスさん立ち止まり、後ろに続く数人がつんのめる。)

(町の子供の声、雑踏のざわめき、急に静まる)

エスさん: (りんとした張りのある声で) ザアカイ。

(木の上のザアカイ、驚いて落ちそうになる。 慌てて体制を整え、なおも息を凝らしている。)

エスさん: ザアカイ。急いで降りてきなさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい。

(ザアカイ、あわてて木から下りてきてエスさんの前に立つ。 エスさんはやさしい微笑みを浮かべてザアカイを見つめている。)

ザアカイ: あ、あの、いま、何と?

エスさん: (微笑みながらザアカイに歩み寄り、「ぴんはね」「うそつき」「罪びと」などと『レッテル』が貼り付けられた、『上着』のボタンを外しながら) 今日は、あなたの家で夕食を取り、一晩お世話になりたい。 いいかい?

(そう言いながらエスさん、ザアカイの上着を脱がせ、自分で着てしまう。)

(上着を脱いだザアカイは、急に体が軽くなったように跳びはね、スキップしながら大喜びで)

ザアカイ: もちろんですとも。 汚いところですが。 どうぞどうぞこちらへ。(なおもスキップしながらエスさんを先導して行く。)

(それを見送る町の人々[アルパヨどん、ゼベ吉ら]は指差したり、ひそひそ話をするしぐさ。うち一人がエスさんの後ろに駆け寄り、『上着』の背中にある『罪びと』の文字のすぐ下に、『・・・の仲間』と書いた『レッテル』を貼り付ける。 エスさんとザアカイ、構わず退場、 暗転)

第四幕 ザアカイの家

(舞台は暗いまま。 ちゃぶ台をはさんで座るエスさんとザアカイにのみスポット。二人は何やら楽しそうに談笑している様子。特にザアカイは大口を開けて笑っている。エスさんはまだ例の上着を着ている。)

ザアカイ: っあっはっは。 そうでしたか。旅をなすってると、いやぁいろんな事があるもんですねぇ。 で、エスさんは明日はエルサレムの方にお発ちになるんで? そうですか。 できれば、もう一晩、いや一週間ぐらいお泊まりいただきたいんですがねぇ。 ま、ご予定がおありじゃしゃあないですねぇ・・・。

(しばらく黙って何か考えている。 そして急に立ち上がる。)

ザアカイ:実はエスさん、わしは今、決めました。 わしの全財産の半分を、貧しい人や、ゼベ吉んとこのように病気で困っている人に寄付します。誰かからだまし取っていた分は、おわびに四倍にして返します。わしは、わしは、今まで・・・(といいながら声が詰まる。)誰かが一緒にいてくれる事が、こんなに嬉しいことだなんて忘れてたっス。

ザアカイ:あれ? (自分の足の裏と床をたしかめる)ここ、なんかこぼれてますね。(ちゃぶ台を触る。 )ここもだ。 すぐになんか拭くもん持ってきますから。 あっ?(自分の手や胸を探る)ここも濡れてらぁ。何だろう? (自分の頬を手のひらで拭う。 それからはなをすする。) あぃ。そこら中びしゃびしゃだぁ。何だこらぁ? エスさん、エスさん、わしはぁ・・・。ひっく。(しゃくりあげる)

エスさん: (静かにザアカイに歩み寄り、両手でザアカイの頬を包む。)「今日、救いがこの家を訪れた。 この人もアブラハムの子孫なのだから。わたしは、迷える者を捜して救うために来たのである。」

(エスさん、舞台下手後方を見上げて歩き去ろうとする。)

ザアカイ: エスさん、あの~。その上着は・・・。

エスさん: これは私がもらっていく。 エルサレムで必要なのだ。 それに、君にはもう要らないものだろう?

(エスさん、舞台下手後方に退場。その背景に十字架の照明が映し出される。)

- 幕 -