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倉辻忠俊 JOCSタンザニア派遣活動報告会 報告

「タボラの子どもたちとともに」 倉辻忠俊

倉辻忠俊さん

日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)の海外派遣ワーカーとして、タンザニアのタボラ州で、子どもたちの健康向上のために活動してきた倉辻忠俊シニアワーカー(小児科医)が、現地での2年間の活動を終えて帰国され、日本各地で報告会をされています。
2013年2月3日(日)に代々木上原教会でも活動報告会をして頂き、約40名が参加しました。

 

倉辻氏は冒頭、私をタンザニアに遣わしてくださった神さまに感謝します、と述べられ、それからノートパソコンを使って現地の写真や、統計情報などを提示しながら40分ほど現地の保健・医療の実態と医師としての活動の様子を紹介されました。その後質疑応答を行いました。

報告抄録

生活環境:

 タンザニアは中央アフリカ東部、ケニアの南隣に位置し、面積は日本の2.5倍、人口は1/3。サバンナ気候で雨が少ない。タボラ州は海岸から750キロ離れた標高1,000メートルの高地にあり、雨期にも雨が少なく、砂漠のようになって貯水池を掘っても砂で埋まってしまうような地域。

 農業と牧畜を生活の糧としている。燃料源は主に木炭。人口の4割がキリスト教徒、4割がイスラム教徒、残りがアフリカ固有の宗教。

 生活のために毎日水を汲まなければならない。現地の人々は何でも頭に乗せて運ぶ。これは人間の構造から考えて理にかなっており、手で持って水運びをしていた倉辻氏は腰を痛めてしまった。

 

保健・医療の状況:

 タンザニアの主要保健指標は世界的にみて最低の水準にある。

  • 乳幼児死亡率 104/出産1000人
  • 出産時の母親の死亡率 950/出産10万件
  • 平均寿命 52歳
  • HIV陽性率 6.2%
  • 世界196ヶ国・地域のなかで、保健衛生の指標での順位は163位

 

保健医療施設:

 いわゆる「医者」には3段階あり、高校卒業後5年間の教育と2年間の臨床研修が求められる「医師」(Medical Officer)の他、中学卒業後、4年間教育を受けることでなれる「医師補」、さらに2年の教育と1年間の研修を経てなる「準医師」(Assistant Medical Officer)がある。
「病院」と呼ばれる施設には医師が勤務しているが、「ヘルスセンター」「診療所」では医師はおらず、準医師、医師補、助産師、看護師で運営されている。

 それらを全部合わせても、タボラ州の医療施設は人口1万人あたり1.5施設でタンザニア全州の中でも最低の水準。

 医療施設でも水の供給が厳しく、診療に必要な「安全な水」の確保に非常に苦労している。樋で雨水を地下の貯水タンクに集め、それを煮沸した後に濾過して使っている。水道もあるにはあるのだが、タボラ州に二つある貯水池の一つは土砂で埋まってしまい、残る一つからの給水も厳しく制限されている上、水は汚れていてそのままでは利用できない。井戸水も濁っていて、しばらく放置すると表面に膜が張っているような有様。

 保健・医療従事者の数は全タンザニア26州の中でも下から2番め。空路のある都市からさらにバスで14〜18時間もかかるため、海外からの支援も届きにくい。助産師、看護師、「医療補助者」(小学校卒業後1年の研修)を合わせて 2.1(日本の水準の約 1/70)。医師(準医師、医師補含む)は0.26(人口1万人あたり)で、日本の1/100。人口に対する保健・医療従事者の数、医療施設の数が非常に少ない。

 タボラ大司教区は11の医療施設をもっており、そのすべてがローマ・カトリック教会の支配下にある。倉辻医師は、そのうちの一つイプリ・ヘルスセンターで週3日、診療と医療従事者のキャリアアップの援助を行い、3日は保健事務所で医療資材や人材の管理業務を行った。

 

子どもの病気と医療支援活動:

 入院した子どもの10パーセントが入院中に死亡。1/3は入院後1日以内、さらに1/3が2日めに亡くなっている。病院に運び込まれたときはすでに手遅れというケースが多い。その理由として大きなものは栄養障害と貧血。栄養状態が悪いため傷病に持ちこたえることができない。

 患者を診るときには医師補を一緒にベッドサイドに連れて回り、どのように診て、どのように考え、どのように治療していったらよいかを一緒に考えるようにした。言葉で教えるのは難しいので、現場で一緒に学ぶようにしていた。

 タボラという地域は、19世紀には奴隷貿易で栄えた地域だった。その後もドイツやイギリスがやってきて整備したこともあり、タボラ市にはそれなりの都市基盤が整っている。イプリは、その都市部と田舎の境目に位置する中途半端な地域で、インターネットや携帯電話により、情報だけは都市と同等に入手できる。そのため魅力的な情報に惑わされて生活が乱れてしまっている。

 それまで自給自足だった生活が貨幣経済に移行したため、例えば牧畜で生活していれば肉には不足しないはずなのに、肉は全部売ってお金に換え、電子機器や綺麗な衣服を購入することに充ててしまっている。そのために子どもの栄養が不足しているという事態がおこる。

 栄養不良の子どもを診ると、一見ふくよかに見えるのだが実は「むくみ」である場合もある。これは蛋白質の不足によって起こるのだが、見た目は痩せていないため見落とされてきた。しかし体重を測ってみると、3歳で8kgしかなかったりする。こういった事を防ぐため、食事改善の活動をしている。

 またJOCSから助産師が派遣されるようになったため、現地の助産師を指導し、安全なお産の環境をととのえる事が進んできた。助産師に見守られた安全な環境でお産する人は開設当初は年に100件程度だったものが、今は1000件を超えている。

 新生児の死亡率がそれまでは50以上/出産1000人だったものが、20前後まで下がってきた。しかし、死産はあまり改善されていない。妊婦の栄養状態が良くないことと、牧畜が生活の中心にあって動物に接する機会が多いため、トキソプラズマやリステリア症に感染することが多いためと思われる。動物からの感染症対策が今後の課題。

 子どもの栄養状態を見ていくと、出産後6ヶ月くらいまでは母乳を飲んでいるためとても発育がよい。しかし、その後急速に栄養不良になる子どもが多い。そこで先祖代々伝わる伝統食を調べて高栄養の離乳食を工夫した。「ウジ・ボーラ」(ウジ=粥、ボーラ=すばらしい)というお粥の素。タンパク源としてマハラゲという豆、高カロリーの落花生、炭水化物としてとうもろこし、小麦を粉にして混ぜたもので、お湯に溶かせばお粥になる。

 疾病で桁違いに多いのはマラリア、貧血(遺伝性の鎌状赤血球による貧血も多い)、HIV。肺炎、感染性の急性下痢症もかなり減ってきてはいるが、相変わらず多い。

 小児で多いのはやけど。飲料に使う水は必ず煮沸しなければならないため、生活環境で湯を沸かす機会が多く、お湯による事故が後を絶たない。

 大人で増えているのは、慢性閉塞性呼吸器障害。先進国で見られるような排気ガス等によるものではなく、土埃が非常に細かくなったものを吸い込んだことによる。

 外科系の診療では、先進国から期間を決めて外科医を派遣し、入院施設を巡回して集中的に治療を行っている。例えば兎唇(みつくち)、口蓋裂など先天奇形の形成手術、白内障の手術、甲状腺腫瘍の治療など。

 火傷の応急処置としては「清潔な水で冷やす」が原則だが、手近に「清潔な水」はない。代わりに伝統的に言い伝えられた手当があり、医学的に見ても理にかなっている。それはパパイヤの実を砕いてやけどした場所に当てる方法。パパイヤには冷やす作用があり、また酵素を豊富に含むため殺菌作用があり感染を起こしにくい。

 こういう伝統的な治療法は良いのだが、タボラにはいろいろな「まじない」を施術する伝統医がおり、例えば厄病除けのために「耳に穴を開ける」「口蓋垂(のどチンコ)を切除する」などが行われている。多量の出血で命を落とす子どももあるため、このような医療的根拠のないまじないをしないように、伝統医と話し合っていくことも大切。しかし、呪術医を敵にまわしてはいけない。仲良くなって良い伝統は守り、危険なまじないは止めて頂く。

 皆が持っている知恵を共有し、技術を磨くため、保健セミナーも実施している。セミナーには地方の各施設から一人ずつぐらいしか参加できないので、参加者が施設に戻ってから他の職員に「伝える」ことができるよう、伝達スキルの習得にも重点をおいている。

倉辻忠俊報告会

[報告まとめ:村上 進]