おひっこし ―ときわ木の物語―

オリジナル絵本 作・画: 土田 潤子
脚本: 土田 潤子
劇中歌 作曲:南山 宏之
作詞:村上 進

―ぶたいのまん中にモミさん。いるかいないかわからないくらいのうすぐらさのなかで、マントをはおってたたずむ。
向かって右手に、左からタケ、モモ、カキの順に三人マントをはおって立っている。
(スポットライト上から下へひとすじ。だんだんあかるく。)
静かな朝の音楽と共にだんだん明るくなるワタナベ家の庭。


【第1幕】モミさんとミネさん

モミさん

「わたしは、もみの木。名前はワタナベ・モミともうします。
ワタナベさんのお家の庭に長いこと住んでおります。ここは、静かで、日あたりがよく、とても気持ちのよいところです。からだのすみずみまで陽の光を浴びて毎日すごしております。
わたしは、ここにもうずいぶん長く生きているので、幹はしっかりと太く、(少しあしを広げる)葉の色もこいみどりです。(と、右左のかた先を見る。)時々やってくるあらしにも負けなくなりました。」


―ミネさん登場。スコップやじょうろをバギーにいれて登場。土の手入れをする。 ミネさん、さぎょうの手を止めてながめつつ・・・

ミネさん

「本当にりっぱなよい木になった。」

モミさん

「ワタナベさんが、ときどきひりょうをくださったり、あつい夏には毎朝たっぷりのお水をくださったおかげでわたしはこんなに元気に生きることができました。」

―ミネさん、さぎょうをつづける。じょうろでみずをやったり、スコップでていれをしたりする。

ナレーター

こうやって毎日、朝がくれば伸び伸びと葉を広げ、夜になるとぐっすりと眠り、何ひとつ困ったことのない暮らしをしてモミさんは幸せでした。
けれども・・・
時々思うことがひとつだけありました。それは・・・

モミさん

「わたしはなぜここにいて、なんのためにここに立っているのだろう。」

  ―ミネさん、ひだりの台にこしをおろしてやすむ。
私はもみの木 いつもみどりよ
きのうもきょうも お陽さまあびて
ここに立ってる 何のため?
まっすぐ伸びた 誰のため?
私はもみの木 いつもみどりよ


【第2幕】タケモモカキ三人娘!

ナレーター

この庭には、モミさんだけではなくほかの種類のいろいろな木も立っていました。みんな、すばらしい木です。
「たとえば、春っ!」

―ハイテンポな春の音楽流れる!ここからはファッションショーのように。それぞれの木がじゅんばんにでてきてモミさんのうしろをまわってまえに立ち、話す。次の木の音楽がきこえたらもとのばしょにもどる。
ミネさん、こしをおろし楽しんでみている。

タケさん

「わたしはタケっ!」(といってマントをぬぐ)
「わたしはこのにわでいちばんせがたかいのです。このうつくしいいろをごらんくださーい。まいとしたけのこもこーんなにたくさんはえます!」

と茶色の布をとるとたけのこがある。
―ミネさん、筍をとってうれしそうにバギーに入れ、もとの位置にすわる。

ナレーター

「また、夏には・・・」

―少しやわらかな夏の音楽に変わる。夏のみずみずしい感じ。
―タケさんマントをひろってはおりもとのばしょにもどる。

モモさん

「わたしはモモっ。(とマントをぬぐ。)今年もまあるくてジューシーで美しい実がなりました。ヒヨドリがやって来ないうちにめしあがれ。」

―モモのなり具合を見るミネさん。

ミネさん

「子どもたちおいで〜」

わーっ!と子どもたちリーダーと共に登場。
リーダータクくん、きゃたつを持って先頭に。子ども達あとにつづく。モモをとり始める。下にいる子たちにとってはわたす。
タクくん、みんなをオルガンのほうまで誘導。

子ども1

「ぼくもほしい!」

子ども2

「ぼくも!」

子ども3

「わあ、おいしそう!」

タクくん

「順番順番!」(とみんなをならばせる。)

タクくんみんなにモモをわたす。モモをもらったこからうしろの席へ移動。伸子モモ回収。ツリー堀りのかっこうになってまつ。
―モモさんはちょっと胸を張り、うれしそうな表情。

ナレーター

『そして秋・・・』

―また、音楽かわる。こんどは秋らしいメロディ。
―モモさんもマントをきてもとのいちへ。

カキさん

「わたしはカキ。
葉も実もすべて同系色で統一されております。実はもちろん甘いですよ、甘いですよ〜。」

―ミネさん、カキをもいでカゴにいれて右にまわって2,3列目へ行く。
(全体に照明おとす。スポットライトのみ。)
―音楽は消えて、モミさんスポットライトの中。

ナレーター

春、夏、秋・・・。それぞれの季節、すばらしいみんなと自分を見くらべてもしかたがない、とは思うものの、時々いろいろな木の持つその「わざ」をうらやましく思うこともありました。

モミさん

「わたしは、といえばどうでしょう。一年中「おなじ」です。ずーっと葉の色は緑。美しい実はなりません。」

(マントの中の自分のからだをつくづく見る)

「子どもさんたちに囲まれるわけでもなく、ただみなさんを眺めることだけを楽しみに一年を過ごしているのです。
こんな時、(なぜ、なんのためにここに立っているのか?)という考えがうかんでくるのです。」

―ミノムシさん右手から登場。

ミノムシさん

「こんにちは。ことしもおせわになります。モミさんのところは子どもさんもこないし、いつもしずかであんしんです。」(とよりそう。)

―カブトムシ左手からとうじょう。

カブトムシの幼虫

「ここはなかなかいいねどこ、おとなになるのにいいねどこ。」

(と、木の根もとに丸くなってねてしまう。茶の布をかぶる。)

モミさん

「やれやれ、わたしのところにやってくるのはミノムシやカブトムシの子どもたちばかりか・・・
でもまあ何の役にも立たないよりはいいのだろうが・・・」


―タケ、モモ、カキの三人娘退場。
私はもみの木 いつもみどりよ
ひゃくねんせんねん ずっとおんなじ
花も咲かない 実もならない
虫たちがきて 眠るだけ
私はもみの木 いつもみどりよ


【第3幕】ツリー堀り隊がやってきた!

ナレーター

だんだん空気はすんでつめたくなり、いよいよ冬が近いことが感じられるころになりました。庭のほとんどの木はみな美しい葉を落とし、黙ってやがて来る春を夢見ながら静かな休みの時をむかえます。

―モミさん、うでを組んで、少しうつらうつらいねむりをする。
―左2列目通路から、ツリー堀りグループ登場。
ジーパン、セーター、マフラー、長靴、軍手、スコップ。

ススム先生

「ああ、これだ、これだ。このモミだ。枝もいいぐあいに広がっている。今年は、これにしよう。」
「さて、作業始め!」

(と、みんなで掘り始める。)

ツリー堀り子どもたち

「よいしょ、よいしょ!」

―モミさん、とても不安げなかお!

モミさん

「根もとにはカブトムシの子どもたちがたくさんねむっています。こんな真冬に掘り起こされでもしたらみんな死んでしまいます。それに気持ちよくぶらさがっているミノムシさんたちだってびっくりして落ちてしまいます。」

ツリー堀り子どもたち

「よいしょっ!よいしょっ!」

ススム先生

「もうちょっとだ。がんばって!」

ナレーター

モミさんの心配をよそにみんなはまわりをどんどん深く深く掘っていきます。こんなに深く掘られたらモミさんはしっかり立っていることが出来なくてぐらぐらになってきました。

(斜めっていくモミさん。子どもたちみんなでささえる。)

ススム先生

「よーし。これでなんとか抜けそうだぞ。台車をもってきて。」

モミさん

「えーっ。わたしはぬかれてしまうのか?」

―完全に横倒しになるモミさん。

ススム先生

「根っこの土を少し落として台車にのっけよう。」

カブトムシの幼虫

「な、なんだ。なんだ。」(おとした土の中からねぼけたカブトムシの子ども布をおしのけもぞもぞたちあがる。)

ツリー堀り子ども

「あ、カブトムシの幼虫だ!いそいで埋めてやろう!」

(と茶色の布をかけてやる。)

カブトムシの幼虫

「ココハナカナカイイネドコ、オトナニナルノニイイネドコ」

(と立って言ってから、布をかぶってまた寝てしまう。) ―モミさん台車にのって立ち上がる。

モミさん

「もう、この庭にはいられないということなのか。そういえば、わたしはみんなを喜ばせることはなにもできない。美しい葉も、実も、ならせることができない・・・もう、だめだ。」(うなだれる)

ススム先生

「さあ、行こう。重いから気をつけて。」

―オルガン前でモミさんは、台車に乗せられ、みんながぎょうれつでモミさんを舞台下手に向かって運んでゆく。
すぐ、少し明るい音楽。


【第4幕】モミさんはどこへ?

―ここから、上原の町のスライドがかべにうつし出される。本当にモミさんがとおった道をたどる。モミさんの目線でうつしだされる。

ナレーター

モミさんは、住みなれたワタナベさんのお家の門をくぐり、外へ出ました。夕方の街の中へごろごろと手押し車ではこばれていきます。車や人の通る少し広い通りへ出ました。へいの外は初めてなのでなにもかもがめずらしいです。少しいくと、細いろじに入りました。

舞台左手まで行ったら今度は下手から上手へ行列移動。背景には斜めになった(坂道の)風景。舞台上手、オルガン階段下まで移動してゆく。

ススム先生

「くだり坂だから気をつけろー。」

―鉢植えモミさん(オルガン階段上に)はでに登場。キラキラなかんじ。じゃらじゃら音ががするものもつけている。

鉢植えモミさん

「こんにちはー。」

ナレーター

突然声をかけられました。よく見ると一軒の家の玄関にやはり大きな鉢に入れられて立っているモミさんがいました。わたしよりもだいぶ若いようです。お庭でないところにいる木を見るのははじめてでした。

モミさん

「こんにちは。」(と、階段下から上に向かって小さく答える。)

鉢植えモミさん

「あなたもですか?いよいよですね。わたしはね。今年はデンキピカピカだそうです。楽しみですねー。がんばりましょうねー」。

ナレーター

「いよいよ」だとか「デンキピカピカ」で「楽しみ」だとか、モミさんにはなんのことだかさっぱりわかりません。
いったい自分がこれからどこへ行くのかしんぱいになりました。
坂をおりきったところで、手押し車は急に止まりました。大きな家の前です。とんがりやねにふしぎな十字のしるしがついた家です。(教会の写真が正面左の壁にうつる。)

―オルガン階段下でモミさんを横倒しにし、みんなで担いで足のほうから舞台中央へ移動させる。

ススム先生

「ぶつけないようにきをつけてー!」

ツリー堀り子どもたち

「よいしょ、よいしょ。」(やや左手少し高い位置にモミさんを置く。)

ススム先生

「ひとまず、終了。ここから先は、また明日にしよう。」

(モミさんスポットライト)
―しーんとした部屋の中。天井やあたりを不安げに見回すモミさん。 少し不安げなギターの音楽ながれる。ギター小さくながれながら・・・

ナレーター

だんだん暗くなる部屋のなかでモミさんは不安で不安でたまりませんでした。明日になればわたしはどうなってしまうのだろうか。切ってたきぎにでもされるのか、このまますてられるのか。こんなことを考えているとねむれないまま朝をむかえました。

(少しずつあかるくなっていく)
―すこしづつ朝の光が差し込む。


【第5幕】うれしいおくりもの

―中央通路からご婦人1がくふをかかえてはいってくる。すこしおいてクランツをもったご婦人2はいってくる。

ご婦人2

「おはようございます。今日はオルガンのれんしゅうですか?」

ご婦人1

「おはようございます。いよいよアドベントですね。」

―ふたりいっしょに歩いていき、もみさんに気づいて立ちどまる。

ご婦人2

「まあ、すてきじゃないの。色が濃くて枝ぶりもよいりっぱなモミだこと。」

ご婦人1

「ほんと。生のモミをかざるのはやっぱりいいわね。」

―モミさんをかこみ、口々にほめ、枝にちょんちょんとさわる。向きをかえたりして良い位置におちつかせる。
モミさんきんちょうしている。
―ご婦人1ピアノの前にすわる
―ケイゾーさんはいってくる。

ケイゾーさん

「おはようございます。」

ご婦人2

「おはようございます。」

ご婦人3

「いつもおそうじごくろうさまです。」

ケイゾーさん

「いえいえ。これはわたしの仕事とこころえております。おお!ことしはまたりっぱなもみですね。」

子どもたち

「さあ、かざろう!」

―子どもたち、箱をもってきて箱の中にあるきらきらしたものをとりだしモミさんにつけはじめる。
(もみの木かざろうファララララーララ・ラ・ラ)
―モミさん、なれないことに、もぞもぞする。

ツリー飾り子ども1

「あっ。ミノムシだ。とっちゃおうか?」(手をのばす。)

ツリー飾り子ども2

「それもすてきな飾りだから、そのままそっとしておこうよ。」

ツリー飾り子ども3

「そだね。そうしよう。」

―ススム先生、「3,2,1」で大きな赤い星に点灯。
―モミさん星に注目。おおーっと言う感じで見とれる。

ご婦人1

「すてき、すてき。やっぱりモミのこい緑に赤い星がよくはえる。これでじゅんびはととのったわね。」

―モミさんかざりのついた自分の姿をふしぎそうにしばしながめる。
モミさんをかこんで子どもたち、マントをはおらせる。
モミさん他の木のようにさっとマントを取ってみる。
「モミでーす。」と何回かやってみる。
美しいクリスマスツリーになっている。
モミさんのテーマ音楽、流れる。音楽流れたまま・・・

ナレーター

いったいなんのじゅんびなのかその時モミさんにはわかりませんでしたが、みんなのかおを見ていると楽しい事のじゅんびにはちがいないとおもいました。そして、一年中緑のままでかわりばえのしないことをつまらなくおもっていた自分のことを、こんなによろこんでくれるひとたちがいるということにおどろきました。

だれかがわたしを ここへつれてきて
うれしいしごとを あたえてくれた
おもいがけない おくりもの
ふしぎな すてきな おひっこし
私はもみの木 いつもみどりよ


―クリスマスのいろいろないしょうにきがえる。.かいば桶準備。き典子さん、伸子さんの指示にしたがいならぶじゅんびをする。
「あらののはてに」ちいさくながれる。

ナレーター

次の日から何週にもわたってモミさんの身におこったできごとは本当に夢のようなものでした。
この大きな家には、週に一度、おおぜいのひとが集まってきて、子どももおとなもモミさんを囲んで楽しく語り、歌い、劇をして、それはそれは楽しい時をすごしたのでした。

―いろいろやっていたみんなしぜんにモミさんをかこみページェントのさいごのばめんのようにならぶ。はじめにかいばおけをおきそれを中心にしてならぶ。ならんだところで・・・
―「あらののはてに」ぜんそう・・・ピアノ
―みんなで、「あらののはてに」を歌う。
歌いおわったら、はくしゅ。(会場の人にもしてもらう。)
全員、おつかれさまあーおつかれさまあーとちっていく。


【第6幕】みんなでうたおう!

―まんなかの台の上にもみさん。スポット。

モミさん

今は、またワタナベさんのお家のいつもの場所にもどり、あの冬の一ヶ月のことをおもいだしながら、毎日すごしています。あの場所でのできごとは、わたしにあたえられたなによりのおくりものでした。
私をもとのばしょにもどしながらワタナベさんは、言ってくださったのです。

ミネさん

「モミさん、なーんにもかざりがついてなくても、ほんとにあなたはすてきないい木です。」

 

モミさん

私はピンと背すじをのばしていつものように庭の真ん中に立っています。
また、あの不思議な「おひっこし」ができるかな、と楽しみにしながら、ね・・・



冬の朝のひかりの中で
きっと今ならはっきり言える
ぼくはみどりのままでいいんだ
ぼくはぼくのままでいいんだ

誰かと自分を比べるよりも
ぼくを生かしてるチカラを信じよう
何の飾りもついてないけど
ぼくはぼくのままでいいんだ

冬の朝のひかりの中で
ぼくらは互いに見つめあってた
きみはきみのままでいいんだ
ぼくがぼくのままであるように

ぼくらはぼくらのままがいちばん!
ぼくらはぼくらのままでいいんだ
―一旦暗転、モミさんのテーマ流れる。(インストルメント)
―照明が点き、モミさんのテーマうたいつつ、右手から手つなぎで一歩前に出てあいさつし、もとにもどる。


私はもみの木 いつもみどりよ
きのうもきょうも お陽さまあびて
ここに立ってる 何のため?
まっすぐ伸びた 誰のため?
私はもみの木 いつもみどりよ

私はもみの木 いつもみどりよ
ひゃくねんせんねん ずっとおんなじ
花も咲かない 実もならない
虫たちがきて 眠るだけ
私はもみの木 いつもみどりよ

だれかがわたしを ここへつれてきて
うれしいしごとを あたえてくれた
おもいがけない おくりもの
ふしぎな すてきな おひっこし
私はもみの木 いつもみどりよ




*おしまい*

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