劇「ともしび」

2004年クリスマス

原作:S.ラーゲルレーブ
脚本:村上雅子

【ナレーション】
 むかし、イタリヤはフィレンツェのまちにラニエロという男がおりました。らんぼうで、とほうもない力持ち、うそつきでおおぼらふき、けんかは何よりも好きという男でありました。


【第一場】フィレンツェの町で、けんかにかけつけるラニエロ

まちびと1: たいへんだ、たいへんだ。けんかだよ。だれかー。
ラニエロ:なに? けんかだと? そいつはおれさまのでばんだ。 わるいのはどっちだ? やっつけてやる。
けんか男1: わるいのはおまえだ! おまえがわるいんだ!
けんか男2: おまえが先に手を出したんじゃないか!このやろう。 (と、なぐりあう)
ラニエロ: なに?おまえがわるい?こっちもわるい? ようし。
まちびと2: ラニエロ、やめろよ。ラニエロ!



【ナレーション】
 さてその頃、エルサレムはイスラム軍に占領されました。「エルサレムにあるキリストのお墓を異教の民から取り戻せ−」という号令をかけて、ヨーロッパの国々は「十字軍」をつくり、軍隊を遠い遠いエルサレムに向かって送ったのであります。立派な名目を掲げながら、この戦争もその実は、支配者たちの勢力拡大を狙ったものでした。王の命令のもと、兵士達は、ある者はいやいや、ある者は、手柄を立て、名をあげ、褒美にあずかろうとして、遠い戦場に向かってゆきました。
 けんか大好き、力自慢のラニエロが黙っているはずはありません。イタリヤ軍の隊長になり、先頭きっておお暴れ、数々の手柄を立てたのでありました。


【第二場】イタリヤ軍の宴会で、ともしびを運ぶはめに

兵士1: ラニエロ隊長の今日のお働きは、すごかったですね!
兵士2: あの高いエルサレム城の壁をよじ登って一番乗り!
兵士3: おかげでイタリヤ隊は鼻高々。ラニエロ様の名は全軍に響き渡った!
ラニエロ: まあな。こんなのは俺様からすりゃたいしたことないのさ。でもちっとは、俺様の名も知られたかな。 わぁっはっはっは。
兵士4: そうですよ。そのほうびに、ほらこのローソクのともしび。これはキリスト様のお墓にあったともしびを、一番にわれわれの陣営にわけてくださったもの。


酒場のおやじ: さあ商売、商売っと。はい、おまちどお。 だが今夜の客は・・・陽気に振舞っているが、血のにおいがぷんぷんするぞ。
兵士3: なんだと? 俺たちはキリスト様のお墓を異教の民から奪い返したのだ。腰抜けのお前らに何がわかる。
酒場のおやじ: わかるさ。お前さんたちがしたことは、ただただ破壊と略奪だ。
兵士2: ちがう。俺たちは大切なものを守るために戦ったんだ。
酒場のおやじ: 守るため? キリスト様がそんなやり方をお喜びになるなんて到底思えんね。あんたら軍隊は殺すだけだ。何一つ守ることなどできん。
ラニエロ: なんだと? もういっぺん言ってみろ。
酒場のおやじ: そうさ。お前さんはさっきからそのローソクの火を後生大事にしているが、その、か弱い火を一晩守ることすら、できゃしないさ。
ラニエロ: そんなことはない。俺はこの火を守って、フィレンツェまで持って帰るのだ!
酒場のおやじ: は! できるわけがない。お前さんがどんなに力自慢でも、ローソクの火を持って消さずに旅をするなど。はっはっは。お笑いだ。
ラニエロ: 黙れ! 黙れ! 俺様がやってみせるわ。



【第三場】 山道で山賊に襲われる
ラニエロ:おっと! ローソクの火ってのは、あんがい厄介だな。ちょっとの風でもすぐに消えかかる。 マントをかぶせるかな。おっとこれはもえうつってしまう。うーん・・・・そうだ、後ろ向きに馬に乗って、俺のからだを風除けにすりゃいいんだ。
ラニエロ:おお、これはいいぞ。

山賊1:ちょっとまて! 馬を下りろ。俺たち山賊様に身ぐるみ置いてゆけ。
山賊2:お。立派なかぶととよろいじゃねえか。金になるぜ。おお金もたんまり持ってやがる。
ラニエロ:ううむ。お前たちをけ散らしてやるなんて、なんでもないことだ。だが俺はこのローソクの火を消すわけにはいかない。・・うう・・かぶともよろいも金もみんな持ってゆけ。だが馬とローソクの束だけは残しておいてくれぇ。
山賊3:へっへ。うまくいったぜ。あんがい弱かったじゃねえか。後生大事にローソクをかばってさ。



【ナレーション】
 ながいながい旅でありました。船で海を渡ろうにもお金がありません。ラニエロはひたすら陸路をたどり、いくつもの国と荒れ野を通って、フィレンツェ目指して進みました。なんとつらい、苦しい毎日でありましたことか。ひと吹きの風、ひとしずくの雨でも、ともしびは消えてしまう。消えないように、消えないようにとそればかりを願いながら、ラニエロは旅を続けたのでした。


【第四場】イスラムの母親に火をねだられる

ラニエロ:あーあー、こんなか弱いものを必死で守ろうなんて、おれにとっては生まれてはじめてのことだ。あー、なんてむずかしいんだ。疲れたなあ。

イスラムの母: もし、旅のお方、お願いでございます。火を分けてください。かまどの火を絶やしてしまったのです。火がなくては子どもに食べるものをつくってやることができません。どうか火を分けてください。
ラニエロ: だめだ、だめだ。お前はイスラムの女。この火は消さずに守ってゆかねばならぬ「聖なるともしび」だ。異教徒のお前に分けてやることはできぬ。
イスラムの母: どうか火を分けて下さい、旅のお方。子どものいのちこそは、消さずに、守りつづけねばならぬ、私のともしびなのでございます!
ラニエロ: そうか・・こどものいのちこそはともしび・・か。 (と、この言葉に心打たれ、火を移してやる)
イスラムの母: ありがとうございます!
こども1: おじちゃんありがとう!
こども2: おじちゃん、これあげる。(と、手に持ったローソクを渡す)                             
ラニエロ: おお、ありがとうよ。



【第五場】雨の中で小鳥たちに守られるともしび

ラニエロ 疲れたなあ。ここらでちょっとひとねむりしよう。 (舞台奥の石の上にローソクを置き,前のほうに横たわり眠る。しばらくして)
ラニエロ: あっ! 雨だ。雨が降っている。ローソクは? 消えてしまったに違いない。あー、もうおしまいだ。

ラニエロ: あー、小鳥たちがまもってくれてる。・・・ありがとう!
ラニエロ: ああ、なんとかわいい小鳥たち!俺の手に小鳥が止まってくれるなんて、はじめてだ。



【ナレーション】
 ともしびを大事にまもって旅を続けるうちに、ラニエロはいくさでの数々の手柄や、名誉や分捕りものなどは、もうどうでもよくなってしまいました。 お金もなく、ぼろぼろになりながら、ただひたすらともし火を守るラニエロに、異国のひとびとは食べるものを、一晩の宿を、代えのローソクをと、与えてくれたのでした。ラニエロの心は、いくさを憎み、やさしいもの、おだやかなものを喜ぶようになっていったのです。
 ながいながい旅も終わりに近づき、フィレンツェの町がみえてきました。


【第六場】フィレンツェの町

まちびと3: なんだ、そのかっこうは! おまえ、頭がおかしいんじゃないか?
まちびと8: お前は"パッツオ"だ。いかれてる!

(まちの人々、"パッツオ!""パッツオ!"と口々に叫び、ばかにする。)


【第七場】大聖堂の中

ラニエロ: みなさん! このともしびは、エルサレムのキリスト様のお墓から、ラニエロが運んでまいりました。祭壇のローソクにともしてください!
まちびと4: ラニエロだと? あのうそつきのおおぼらふきが!エルサレムから運んできただと? うそつけ! なんの証拠がある?


ラニエロ: えーっ? 証拠だって? ここにともしびがあるじゃないか。私がエルサレムから運んできたんだ。
まちびと5: おまえのいうことなんか信じられるか! そこの町の外でちょいと火をつけてきたんじゃないのか? え?
ラニエロ: 証拠?・・・ずっと一人旅をしてきたんです。あの砂漠や荒れ野がやってきて、あかしを立ててくれるというのならともかく・・・。


  (この時、左手から一羽の白い鳩が飛び込んできて、ラニエロの手にあるローソクの火にぶつかり、火を消してしまう。 しかし火はその羽にもえうつり、鳩は苦しげに飛び回る。)


まちびと6: あー、とりが! とりが! 羽にローソクの火が燃えついた!
まちびと7: ああ、とりが燃えている!


司祭:おお、奇跡じゃ! 神様が、あかしをお立てなされたぞ!この火こそ、 まことにラニエロが長い長い旅をして運んできたのじゃ。




まちびと6: ああ、神様があかしを立ててくださった!
まちびと7: このともしびこそは、キリストさまのお墓の聖なる火
まちびと8: 命をすてて火をともしてくれたあのとりこそは、神のみつかい!

オルガンの音楽。 祭司大ローソクから自分のろうそくに火をともし、人々のろうそくに渡す。 全員にろうそくの火が回ったら、舞台いっぱいに広がる。



劇の練習に先立ち、素話で子どもたちに話して聞かせた原作

セルマ・ラーゲルレーヴ原作・イシガ オサム訳
岩波文庫「キリスト伝説集」より翻案(→ pdfファイル


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