2012.06.10

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「少年のパンと魚」

廣石 望

ヨハネによる福音書6,1-15

I

 昔、ガリラヤのカナという村に、ヨハナンくんという男の子が、お母さんとおじさんといっしょに住んでいました。

 ある日、ヨハナンくんは、お母さんから5つの小さなパンと、2匹の干し魚を「お弁当」にもらって、おじさんといっしょに出かけました。隣村のナザレ出身のイエスという人が、神さまから特別な力を授かって、たくさんの病気を治すというので、いっしょに見に行こうというのです。

 なんでも、おじさんが言うには、カファルナウムに住んでいる知りあいの息子さんが病気で死にそうになっていたのを、イエスは治したのだそうです。その人はたまたまカナの村にいたイエスを探し当ててお願いしたら、「帰りなさい。あなたの息子は生きる」と言ってくれ、家に帰ってみたら子どもは元気になっていたんだそうです。それでおじさんは、どうしてもイエスに会いたくなったのでした。

 ヨハナンくんも会いたいと思いました。お母さんは「おじさんといっしょにいるんですよ。夕方までには帰っておいで」と言って送りだしてくれました。

 

II

 たくさんの人たちがいました。男の人たちだけで、ざっと5000人! まるでサッカーの試合みたいです。大勢すぎて、イエスがどこにいるのか分かりません。おじさんはヨハナンくんの手をしっかり握っています。

 あれ、大人の人たちが歩き始めました。おじさんは言いました、「イエスは湖の向こう側に舟で渡ったそうだ。ぼくたちは歩いてゆこう!」。ヨハナンくんは、夕方までにお家に帰れるかどうか心配になりました。でも、おじさんがいるからだいじょうぶ! いっしょに歩き始めました。でも、途中ではぐれてしまったのです。ヨハナンくんは、おじさんを探して、大人たちと同じ方向にあるいてゆきました。

 

III

 湖の向こう岸まで歩いたところで、大人たちは止まりました。もう夕方です。ヨハナンくんはずっとおじさんを探していますが、見つかりません。

 そのとき大人の人たちが、青草の上に座り始めました。何人かのリーダーのような人たちが、「みんな座りましょう」と手で合図をしながら、やってくるのが見えました。

 ヨハナンくんは、その一人に近づいて言いました。「おじさんとはぐれちゃいました」。その人は言いました、「わしはアンデレという者じゃが、いま皆に食べさせるためのご飯を探しておるんじゃ。あんまり大勢なんで、こりゃどうにもならんぞ」。ヨハナンくんは言いました、「パンとお魚ならあります。お母さんが作ってくれました。あげます」。アンデレは、「おぉ、ぼうや。では、イエスさまのところにもっていこう。ついておいで!」。

 アンデレさんは、ヨハナンくんと手をつなぎ、押しあいへし合いして座っている大人の間を歩いて、イエスのもとに連れて行ってくれました。

 

IV

 イエスは、ヨハナンくんが5つのパンと2匹の魚を差し出すと、「ありがとう」と言って頭を撫でてくれました。そして天に向かってお祈りしました。

 「日々の糧を与えたもう、恵みの御神は誉むべきかな!」

 そしてパンを裂いて、皆に配りました。お魚も同じようにしました。するとどうでしょう! 配っても配ってもパンも魚もなくなりません。どんどんパンは増えてゆき、どんどん魚も増えてゆきました。

 ヨハナンくんは大きな声で言いました、「皆さん、これはぼくのお母さんがつくったお弁当です」。周りの人たちは楽しそうに笑って、「ぼうやはどこから来たんだい?」と聞いてくれました。やがておじさんも見つかりました。「いやぁ、イエスを一目見ようと思わず走ってしまって、気がついたらお前がいなかったんだ。ひやひやしたぞい。でも、見つかってよかった」。

 

V

 ヨハナンくんとおじさんは、ぶじにお家に帰りました。お母さんは戸口に立って待っていました。おじさんは、イエスさまとお弟子さんから分けてもらった、残りのパンと魚を差し出して言いました。「イエスが、ヨハナンのお弁当をみんなに配ったら、5000人が満腹した上に、お弁当までもらっちゃった! お前も食べなさい」。

 不思議なことがあるものだと、お母さんは思いました。「あら、美味しいじゃない!」――イエスが配ったパンと魚は、とてもよい味でした。そのときヨハナンくん、お母さん、おじさんの心に、こんな声が聞こえてきました。

 「わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい」。

 
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