新年の挨拶。
『日々の聖句』(ローズンゲン)によれば、2010年の年間聖句は、「心を騒がせるな。神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい」(ヨハネ福音書14章1節)である。この年最初の礼拝に当たり、この聖句について共に考えたい。
これは、主イエスが十字架につけられる前に弟子たちに別れを告げた、いわゆる『訣別説教』の出だしの部分である。他の福音書にも別れを告げる言葉はあるが、ヨハネ福音書の場合は独特であって、かなり長い説教のようなまとまった形を持ち、言葉遣いも思想内容もユニークである。
ヨハネ福音書では、主イエスの生涯は大よそ次のように描き出されている。―― イエスは父なる神の愛する「独り子」(3章16節)だが、天から遣わされて地上に来た。地上における30年の短い生涯の間、彼はひたすら人を愛した。そして、「この世から父のもとへ移る御自分の時が来たことを悟り、世にいる弟子たちを愛して、この上なく愛し抜かれた」(13章1節)。最後に、「わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい」(同34節)という戒めを「新しい掟」として彼らに遺し、この新しい掟が真理であることの証しとして彼は命を捧げた。それに先立って、先ほど我々が読んだ訣別の言葉を語ったのである。「わたしの父の家には住む所がたくさんある。・・・あなたがたのために場所を用意しに行く」(14章2節)。
だが、イエスが死に、三日目に復活して天の父のもとに帰ったということは、弟子たちにとっては、一旦主イエスと別れるということを意味した。それ迄のように、彼はいつも一緒にいて下さるわけではない。主イエスは、ある意味で「不在」になる。今日の所で「心を騒がせるな」と言われたその背景には、このような情況がある。「不在」、あるいは「喪失感」。弟子たちは、このことがもたらす動揺・不安に耐えなければならない。
だが、その弟子たちに対して、イエスは、単に「居なくなる」わけではない、と語りかける。私はあなたがたのために場所を用意しに行くのだ。そして、「行ってあなたがたのために場所を用意したら、戻って来て、あなたがたをわたしのもとに迎える」(3節前半)。父のもとに帰ることによって、イエスは一旦、弟子たちの目から見えなくなるかもしれないが、決して居なくなるわけではない。再びあなたがたの所に戻って来る。これがイエスの約束であった。
これは、世の終わりに起こると信じられていた「再臨」とは違う。16節に、「父は別の弁護者(=聖霊)を遣わして、永遠にあなたがたと一緒にいるようにしてくださる」と言われているように、今後、イエスは「聖霊」を通して弟子たちと共に居る、という約束なのである。「こうして、わたしのいる所に、あなたがたもいることになる」(3節後半)。
生別であれ死別であれ、愛する者と別れることは、我々に耐え難い「喪失感」をもたらす。愛する者がもう傍にはいないという「不在」の意識は、時として耐え難い。我々は、多かれ少なかれ、そのような経験を重ねているであろう。
だが、主イエスはここで、もうあなたがたはそのような喪失感に苦しむことはない、と弟子たちに約束したのである。彼の姿を目で見たり、耳でその言葉を聞いたり、手でその温もりを感じたりすることはもう出来ないかもしれないが、彼は「不在」なのではない。彼はそばにいる。風のように自由な「霊」となって、目に見えない「聖霊」を通してあなたがたと共にいる。だからこそ、イエスは言ったのだ。「心を騒がせるな。神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい」。これは弟子たち、つまり世界の教会に対して与えられた主イエスの約束である。
大晦日の『毎日新聞』の「余禄」というコラムに、恒例によって2009年の世相を詠みこんだ「いろはカルタ」が掲載された。明るい話題も少しはあるが、ほとんどスポーツ関係だ。[は]ハニカミ王者(ゴルフの石川遼君) [に]二度目も世界イチロー [ほ]ボヤキで説いた野球道(楽天の野村監督) [よ]「ようこそゴジラ」と天使の声(松井がヤンキースからエンジェルスに移籍)。
芸能や文学の話題では、[も]モックン賞おくられびと(アカデミー賞を獲得した映画「おくりびと」) [ゐ]1Q84売り上げ独書(村上春樹の新作)ぐらいだ。思わずニヤリとさせられるものに、[の]飲んだら脱ぐな(草薙剛の一件)というのがある。
圧倒的に多いのは、矢張り我々の世界が抱えている不安や矛盾を表現したものだ。[へ]辺野古の移転三転 [ち]長期出張先はソマリア沖 [り]倫理の壁なきウォール街 [ぬ]ぬれぎぬに加担したDNA(DNA鑑定も冤罪を防げなかった) [な]名ばかり店長しとうはなかった [つ]机の奥に核レター(核密約がバレた) [う]運輸安全OB会(JR西日本の隠蔽体質) [お]オバマに兵派賞(ノーベル平和賞とアフガン増派決定の矛盾) [こ]COP割れて地球混乱化(地球温暖化防止のためのCOP15がまとまらなかった) [あ]赤っ恥国債(赤字国債44兆円) [き]銀の若大将カク持つな(北朝鮮の後継者のことか) [み]見通しくらまの船首防衛(海上自衛艦「くらま」の衝突事故) [せ]せきをしたらジロリ(新型インフルエンザ)。
ここにも反映しているように、今年も我々の世界は以前困難な問題を抱えている。その中で、我々の教会は転機を迎える。「心を騒がせるな。神を信じなさい。そして、わたしをも信じなさい」という主イエスの約束を心に刻みたい。